本宮はまっすぐ担任のいる教卓に向かう。
なにやらコソコソと話をしているようだが、律がいる席までその声は聞こえない。
「――…えっ、平川が……」
担任は目を見開いて驚いた。
その際に口にした詩の名字だけが律の耳に届く。
彼らは無断で遅刻をしている詩の話をしているようだ。
詩に何かあった……
律は直感的にそう感じた。
根拠なんて無い。
ただ、今朝の彼女も普通じゃ無かったことがその勘に拍車をかけた。
「……じゃあ、そういう事なんで」
「分かりました」
一通り話が終わると、本宮は教室を出て行く。
律は席を立って後ろのドアから出て、本宮の後を追った。
「藤沢……!?」と律の名前を呼ぶ担任の声が聞こえてきたが、そんなものは構っていられない。
律の心境を思ってか、担任はそれ以上引きとめることもしなかった。
「本宮先生!」
職員室へ戻る本宮の背中に律が声をかける。
「律、どうした?」
律に呼ばれて、彼はゆっくりと振り返った。
“どうした?”と聞きたいのはこちらの方だ。