結局、律が学校の到着するまでに詩が追いついてくることは無かった。
彼女がどこに何をしに行ったのか気になったから、もし追いついてきたら尋ねてみようと思っていたのに。
律はあまり荷物の入っていない軽めの鞄を片手に持って、一人で教室に入る。

「あら、今日は一人?相棒はどうした?」

自分の席につくなり、横の席から太田が話しかけてきた。
太田が言う“相棒”とはもちろん詩のことだ。

「先行けってさ……」
「また振られたの?」
「“また”とか言うな」

太田の一言に少々ムッとしながら律は言い返した。
それでなくても一緒に登校もできず、秘密主義でコソコソしている彼女を目の当たりにして虫の居所があまり良くないというのに。

「詩には絶対に律だって思ったんだけどな、俺は……。やっぱ、本宮だったのか?なぁ……どうなんだよ」

太田は律の機嫌などお構いなしにグイグイ迫ってくる。
夏期講習の後、律がどこへ向かったのか分かっているというような口ぶりだ。