いつものように、詩の母が用意してくれたカフェオレを飲みながら待つ。
しばらくするとパタパタと音を立てながら彼女が階段を駆け下りてきた。
「律、ごめん!先行ってて!」
詩の行動は普段よりずいぶんと慌ただしいものだった。
時間にはまだ少し余裕がある。
律はどうしたのだろうかと首を傾げ、バタバタと慌ただしい詩に対して「先行ってって……詩はどうするんだよ?」と問いかけた。
「ちょっと寄るところがあるの」
「じゃあ、俺も――…」
律が一緒についていくと言おうとしたが、全て言い終わる前に「ダメ!」と断られてしまう。
即断らなくてもいいのに……と思いながらも、彼は「分かった。先行っとく」と了承した。
「遅刻せずに来いよ。できれば、追いついて来い」
のんびり屋の詩に釘をさして、律は空のグラスを置く。
「おばさん、ごちそう様」
空になったグラスをテーブルに残し、詩の母に挨拶をして彼は席を立った。
そして、通い慣れた道をひとり自転車に乗って走っていった。