掛け布団がなくなって少し肌寒くなると、詩はダンゴムシのように縮こまって丸まってしまう。
そして、ようやく薄目を開けるのだ。
「キスをくれなきゃ起きない……」
詩は身体を丸めたまま小声で囁(ささや)く。
上目遣いで甘え上手な子猫のように。
これも彼女の昔からの悪い癖。
人の気持ちも知らないで、毎日心をかき乱してくる。
「……早く起きろよ」
律は彼女の耳元でそう囁(ささや)いてキスをした。
「うん……あと五分……」
この流れも日常茶飯事。
それを見越した時間に起こしに来ているのだから問題はない。
「下で待ってるから」
律は寝ぼけ眼をこする詩に一言告げて部屋を後にした。
一階におりると彼女の母が淹れてくれたカフェオレが用意されている。
「りっちゃん、カフェオレ飲むでしょう?」
「うん。いつもありがとう」
「それはこっちの台詞よ。りっちゃんいなかったら、あの子まともに学生生活も送れないわよ」
詩の母はプリプリと娘の愚痴を吐きながら、冷たいカフェオレを律の目の前に差し出した。
彼女が五分後に起床して身支度を整えるまでの数十分、律はゆっくり時間をかけてカフェオレを味わうのだった。