夏休み後半、今日は高校の登校日。
残暑が厳しく、耳障りな昆虫の鳴き声もまともに耳に入れている余裕さえ無い。
律は早朝からいつものように平川家へ出向いた。
目的はもちろん、幼なじみの詩を起こす為。
「詩、起きてるか?入るぞ」
律がノックと同時に声をかける。
これもいつも通りの対応。
“今まで通りにする”と彼女に約束したからだ。
いつまで待っても部屋の中の幼なじみから返答は無い。
律はドアを開けて詩の寝室に足を踏み入れた。
動物柄のプリントTシャツと中学時代のジャージを身につけて、ベッドの上で丸まっている幼なじみの姿が視界にとまる。
彼女もまるで変わらない。
これについては喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、律は複雑な心境のままベッドに近づいた。
「今日は登校日だぞ。起きて準備しないと遅刻する」
布団をはいで身体を揺すると、詩は薄目を開けて「キスして……」と手をのばす。
律は彼女の要望通りに唇を合わせた。
キスをすると彼女はふんわりと花のように微笑むのだ。
「……あと五分」
その言葉を聞いて、律は部屋を後にした。