たった一回、モーニングコールが必要なかっただけ。話が飛躍(ひやく)しすぎている。
彼女に告白した直後でなければこんなふうにまで思わないのだろう。
「違うから……!」
詩は返答に困ったあげく、少し大きな声を出して否定した。
彼女が明らかに困っているのは律にだってよく分かる。
詩の様子がおかしくなればなるほど、律の心にも余裕がなくなってしまっていた。
「俺、あの祭りの夜……詩に好きだって言ったんだけど。聞こえなかったなんて言わないよな?」
「……」
詩の口は一文字に閉ざされてしまう。
そして、目も合わせようとしない。
「俺のこと嫌い?」
「そんなわけないじゃん……」
「じゃあ、なんで避けるようなことするんだよ……」
「避けてなんて――…」
「避けてるだろっ!」
律はつい大きな声を出してしまった。
すぐに我に返って「ごめん……」と謝罪する。
「なぁ、詩。あの夜の告白……無かった事にさせてくれないか。詩とこんなふうに気まずくなりたかったわけじゃないからさ」
「律……」
詩はずっと下を俯いたままだった。
嫌だとも言わない。それが彼女の答えだ。