律は教室を出たその足で三階の美術室へ向かう。
太田の言うことを真に受けたわけではないが気になってやって来てしまった。
美術室に近づくと室内から男女の明るい話し声が聞こえてくる。
盗み見みたいで気が引けたが律はそっと中の様子をうかがった。
「鷹くん、ありがとう」
「学校では先生だろ」
「えへへ……いつもの癖で……」
「まったく。でも、おかげで画材の整理がはかどったよ、ありがとう」
本宮は柔らかく微笑んで詩の小さな頭を撫でた。
彼女もまんざらでもない様子でそれを受けている。
二人は親戚同士で兄弟みたいに仲が良い。
こんな姿だって小さい頃から何度だって見てきたはずだった。
それなのに、心は頭で考えるのとは正反対にモヤモヤしていく一方。
律は美術室前の廊下でモヤモヤした気持ちを堪(こら)えながら棒立ちしていた。
「あれ……律、何してんの?」
美術室から出てきた詩が彼に気づいて声をかける。
詩に続いて顔を出した本宮が「律、来てたのか。居たなら入ってくればいいのに」とのんきに言った。本宮は彼の事を下の名前で呼ぶ。
本宮にとって律も兄弟みたいなものだから。