「言われてないけど……」

あんな風にハッキリ言われたら今後立ち直れない自信が律にはあった。
好きじゃないとも嫌いだとも言われたわけではない。
ただ、律が好きだとも言わなかった。
元々自分に自信が持てない彼を不安にさせるには十分過ぎた。

「だったら諦めることないだろ。押してダメなら引いてみろって言うけど、律の場合は引けるところなんて無いんだからもっと押していけよ……」

太田は呆れたように言う。
律とは対象的な実に男らしい性格の持ち主だった。
太田が再度校庭を見ると先ほどまで居たはずの詩と美術教師の本宮はいなくなっていて、意地悪そうにニンマリと笑うと「平川、美術室にお持ち帰りされたんじゃねぇか」といやらしく言葉を吐いた。

「帰る」

律は短くそう告げて教科書やノートを鞄に詰め込んだ。
太田はスッスッと片手を振って「おぉ、帰れ、帰れ」とつれない態度をとる。
そして、律が席を立ち教室の出入り口に向かって歩く背中を少し嬉しそうに見送っていた。