再度、校庭に視線を向けると詩は一年生男子にお辞儀していて、彼は肩を落としながら去っていった。

「フラれたな……。ご愁傷様」

太田は一年生男子を哀れに思い合掌する。
律はフラれたらしい彼のことをとても他人事だとは思えず心から同情した。

再び一人でスケッチをしていたかと思えば、ものの数分もしないうちにまた一人詩に声をかける。
美術部顧問で平川家の遠い親戚でもある本宮 鷹之(もとみや たかゆき)だった。

本宮は律たちが通う高校の教師の中では比較的若い方でまだ三十歳手前だ。
物腰が柔らかく、余裕のある大人の男性だった。
生徒の人望も厚い。
相変わらず二人が何を話しているのか律には分からないままだ。
それでも、詩の表情を見ていれば彼に好意的であることだけはハッキリする。

「あの二人、仲良いよな。付き合ってんのかな?」
「いやいや……教師と生徒だろ。その前に親戚同士だし」
「親戚って言ったって血のつながりも怪しいほどの遠い血筋だろ」

太田の言う通り、仮に結婚するにしても何も問題無い。
そう考えると律のモヤモヤは募って、そんな状態のまま「今日はここまで……」という担当教師の号令で本日の夏期講習が修了した。