この日の夏期講習はなんだか身が入らない。
詩が自分を頼らず一人で登校してしまった事が、想像以上のショックを律自身に与えていた。
このままでは詩と友だちでさえもいられなくなる。
律の心と頭はそんな不安でいっぱいいっぱいだ。
彼はぼんやりと窓の外に目を向ける。
二階の窓からは校庭が一望できた。
その片隅で詩が一人でスケッチをしていた。
美術部で描いた絵をコンテストに応募するためだ。
夏の校庭は緑が青々と茂っていて、花も色鮮やかでスケッチにはもってこいな場所。
そんな彼女に一人の男子高生が近づいてくる。
入学したての初々しさがまだ残る一年生だ。
二人はなにやら会話のやりとりをしているが、何を話しているのかまでは当然ながら律にも分からない。
「……あれ、絶対に告白だぜ」
夏期講習で前の席になった親友の太田が、真後ろの席に座る律に小声で告げる。
からかい癖のある太田の言うことを普段ならばいちいち間に受けないのだが、夏休みのこの時期は少し事情が違った。
祭りで巫女舞を披露した詩はとにかくモテるのだ。
あの巫女姿に魅了された若い男たちは束の間の夢を見る。