朝の弱い詩が自ら起きて、しかも律よりも早く登校するだなんて信じられない。
普通なら“よく自分で起きた!”と彼女を褒めて一緒に喜ぶところだが、今の律は複雑な思いを抱えていた。



そんなに俺と顔を合わせたくなかったのか……



彼女に告白をした直後だということもあり、どんどんマイナス思考に陥(おちい)っていく。

「ごめんね、せっかく来てくれたのに……。カフェオレ飲んでいく?」

詩の母は申し訳なさそうに眉を下げ、いつものように律をお茶に誘ってくれた。
自分の娘がいてもいなくても、家を訪ねてきた律に彼女はいつも優しくしてくれる。

「いいや、俺も学校行かないといけないから」
「そう?じゃあ、またゆっくり遊びにおいでね」
「ありがとう」

律は玄関先で詩の母に一礼して外に出る。
詩の母もその後すぐに外に出て、律の背中に向かって「気をつけてね」と声をかけて見送った。

律はいつも詩と共に自転車で走る通学路を一人で走る。
横に詩はいないのにちょっと右寄りの道をまっすぐ進んでしまう癖がそのさみしさを倍増させた。