祭りが終わって数日が経った早朝、律は夏休みだというのに制服姿で平川家へ顔をだした。
律は学校で夏期講習が予定されていたし、詩も美術部の活動があるはずだと思ったからだ。

「おばさん、おはよう。詩……いる?」

律は玄関から室内にいるであろう彼女の母に声をかけた。
ここまではいつも通り。
しかし、律の心臓だけはいつも通りとはいかず、ここへやってくる前からドキドキとは激しく脈打っていた。
あの夜から詩とは初めて会う。
どんな顔をして会いに行ったらいいのか結局分からないままここへ来てしまった。

詩の様子がまだおかしいようなら、あの告白は綺麗さっぱり無かった事にしよう。
彼女だって友人関係までやめようとは思っていないだろう。
恋人同士になれないことで気まずくなるくらいなら、それが一番良い。
自分の気持ちに蓋をすれば済むのだから。
律は不本意だがそんな覚悟も決めかけているところだ。

「あら、りっちゃんおはよう。詩ならもう学校に行ったわよ?」

出迎えてくれた詩の母にそう言われて、律は「えっ……?」と拍子抜けした。