二つの唇が触れ合うまであと数センチというところで、彼女はハッと目を開けた。


『律はこの村を出て一流の大学で勉強すんだよ。それだけの才能があるんだから』


詩は村の人が祭りの時に話していた事を思い出す。
律も否定はしなかった。

「……詩?」

律は首を傾げた。
彼女の様子が変に思えたからだ。
詩は律の胸をポンと押して離れる。

「ごめん。アタシ帰らなきゃ……。まだ今日分の宿題終わってないんだよね……」

そう言って頭を掻(か)いている詩は誰から見たってぎこちなく思えるほど挙動不審だった。

「じゃあ、またね!」

詩が駆け足で去っていく。
まるで、律から逃げるように。
律は彼女の背中を追いかけるでも引き止めるでもなくただ見送っていた。



失敗した――…



彼の脳裏に刻み込まれたのは“告白の失敗”という現実だけ。
どこで何が狂ってしまったのだろうか。

詩が嘘だと言った流れ星が本当はちゃんと流れていたのではないか。
星に願いを言わなかったからこんな結果になったんだと、律はそう決めて自分を慰(なぐさ)めてやることしか出来なかった。