「詩、ヘビはもういないよ」
「ホント……?」

詩は恐る恐る目を開けた。
脅威(きょうい)が過ぎ去ったことへの安心感からか、彼女はゆっくりと律の胸から離れていく。
二人の間を夏の夜風がヒューっと通って、気付くと律は彼女を抱きしめていた。

「俺たち付き合わない?」
「えっ……?」

詩の驚いているような、状況がよく理解できていないような疑問符が聞こえる。
その気持ちはよく分かる。
こんな言葉を口にした本人が一番驚いているのだから。
しかし、もう後戻りはできないしする気も無い。

「俺はずっと前から詩が好きだったよ」

律は詩を抱きしたまま告白する。
彼女は黙ってそれを聞いていた。
あまりに大人しくなってしまったものだから、律は様子が心配になって少し下を向く。
ちょうど、詩が律を見上げているところだった。

「詩……」

彼女が愛おしくて仕方なくて、自分だけのものにしたくてたまらない。
“おはようのキス”ではないキスに詩はかたく目を閉じる。