「あっ、ヘビがいる」

ほんの出来心だった。
小さい頃からヘビやトカゲなどが大の苦手な詩を少し驚かしてやろうと思っただけ。

「嘘!どこ!?ヤダ……怖い……律!」

詩はひどく怖がって律の胸に飛び込んだ。
夜道で視界が悪くヘビがいてもどこにいるのか分からないものだから、彼女の恐怖心は余計に大きくなる。



ちょっとした仕返しのつもりだったのに――…



嘘だと茶化して冗談でしたと終わらせられるような雰囲気でもなくなってしまっていた。

「律……早く追っ払ってよ……」

詩は怖がって律の胸に顔を押し当て自らの視界を塞いだ。
彼の服を夢中で掴む手に力が込められる。
律は両手を軽く上げたまま硬直してしまう。
手持ち無沙汰なこの両手をどうしていいのか分からない。


『おい、律。お前まだ平川に告ってないのかよ。もう夏休み始まるぞ?高校最後の夏休みだぞ……?』


ふっと太田の言葉が律の脳裏によみがえる。
今しかないのかもしれない。
こんな夜はもう二度とやってこないのかもしれない。
律は急にそんな風に思ってならなくなった。