「律!待っててくれたんだ!」

詩は嬉しそうに手を振る。
少し前、舞台で艶やかに舞を披露していた姿とは全く違う普段の彼女。
そのギャップに、律の心臓はギュッと締め付けられる。
律は思わず詩の顔から視線を逸らして「まぁ……詩も一応女だからな……」と誤魔化した。

「“一応”は余計でしょ」

詩は不満を漏らしながらも、最後には「ありがとう」と素直に感謝する。
二人は並んで夜道を歩き出した。

「お母さん!わたがし食べても良い?」
「おうちに帰ったらね」

神社の近くではまだそんな会話もちらほら聞こえた。
一年の中でもこの日は、このあたりがいつになく賑やかになる日だ。

「かわいい」

自分の顔よりもずいぶん大きなわたがし袋を元気に掲(かか)げて歩く小さな男の子を見て詩が言う。

「そうだな」と律は頷いた。
「私もわたがし欲しくなっちゃった」
「子どもか」
詩は「だよね」と楽しそうに笑う。

小さい頃から当たり前のように交わしてきた会話とこの空気が心地いい。