一瞬だって構わないから俺だけを見てくれないかな……



律は毎年同じように思い、願ってきた。
太鼓や笛に合わせて詩は華麗に舞う。
金色の扇子の陰からその大きな瞳を覗かせた。

「あっ……」

舞台に立つ彼女と目と目が合った……そんな気がした。
そわそわっと全身に鳥肌が立つような快感が尾を引いて、律は彼女の出番が終わるまでずっとその姿を目で追っていた。



巫女舞が終わり、社殿の周りに集まっていた人だかりも徐々にまばらになってくる頃、大まかな片づけを終えた律は神社へと続く階段下で詩が出てくるのを待つ。
あたりはすでに真っ暗だ。
いくら犯罪件数が少ない田舎の村とはいえ、女の子一人で夜道を歩かせるには抵抗があった。その女の子が詩ならば尚更。

律は腕時計で現在の時刻を確認する。
時刻は夜の九時過ぎ。
そろそろ、着替えや片付けなどを終えて出てきてもおかしくない時間帯だった。
律が階段の先にある神社の方へ視線を向けると、紙袋と小さな鞄を持って詩が階段をおりてくるのが見えた。