入学式の朝。
パリパリの制服に身を包んで、
賑やかな家を、飛び出して。
「……どこに行くんだよ?」
私の部屋の扉の所に立つ、床を這いずるような声の主を見て、
私は微笑む。
「学校」
そんな人の隣を通り抜けようとすると、掴まれた手首。
「―行くなよ」
「どうして?」
「許さないよ、日向(ヒナタ)」
「……」
「俺以外の男に、近づくのは」
「…………」
無言で、手首を見つめる。
大丈夫。
私が我慢すれば、壊れるものなんてない。
「―翔也(ショウヤ)ー?」
無言で見つめあっていると、下から聞こえてきた、お母さんの声。
何も知らないお母さんは、その人の……手首を掴んできた人の名前を呼んで、
「何、母さん」
何事も無かったかのように尋ね返す彼は、私の手首を離してくれる。
―白川日向。15歳。高校生になれた今日。
ここから先も、変わらぬ毎日。
「日向ー、準備、急ぎなさい!入学式、遅刻するわよ」
「うん……」
階段を降りれば、香ってくるコーヒーの匂い。
そして、席についてこちらを見てくる翔也―白川翔也、私のお兄ちゃん。
何故か彼は、私を異常に支配したがる。