「踊ろう」
「は?」

 利樹は真生の手をとり直すと、下から聞こえてくる花のワルツに乗せて踊り出した。

「……お、踊れたんですか?」

 なんとなくおっかなびっくりそれに合わせながら、真生がそう訊くと、
「いや、弓削利樹は踊れない」
と利樹は言う。

 少し、機嫌よく。

「真生、家を買おうと思うんだ」

「家?」

「港の近くに見つけたんだ。

 海沿いにガス灯が並んでて。
 霧が少し出て綺麗だった。

 それが見える場所に真っ白な家を見つけた。

 真生、俺は人生で何人も好きになれるほど器用じゃない」

 そんな利樹の言葉を聞きながら、私もです、と真生は思っていた。

「俺が高坂でも、そうじゃなくても。

 今度は飽きるほどお前と一緒に居たい、真生――。

 そして、高坂が死んでもお前を覚えていたように。

 きっと俺も死んでもお前を覚えていて。

 生まれ変わって、また、お前を探すだろう」

 真生、と囁き、利樹は唇を重ねてくる。

 高坂の熱い唇を思い出させる――。

 彼と同じ口づけだった。