真生から視線をそらし、利樹は言ってくる。

「怖いんだ……。
 お前と出会うまで、俺はずっと俺だった。

 生まれてから今まで自分というものに絶対的な自信を持って生きてきた」

 それだけ頑張って生きてきたから、と利樹は言う。

「でも、お前と出会ってから、俺は、俺が俺でなければいいと、ずっと思っている。

 お前たちが言う、その高坂透であればいいのにと」

 自分の中にわずかに残る、高坂の記憶ばかりを追い求めている――
と利樹は言った。

「でも、それは今まで生きてきた弓削利樹という人間を否定する行為だ」

 それを聞いた真生は胸が痛くなる。

 私たちはこの人に多くのものを求めすぎたのかもしれないと思っていた。

 此処にこうして存在してくれているだけで嬉しいのに。

 ついつい、この人が高坂透の記憶の片鱗を見せてくれるたびに、喜んでしまっていた。

 前世を思い出せば思い出すほど、この人は今までの自分とは違う自分になってしまうかもしれないのに。