「いや、警察には一緒に行ってきた。

 アパート専用のゴミステーションの横に、一階のおばあちゃんの孫が夏に花火をしたあと、忘れて帰ったらしい水の入った小さなバケツがあるんだ。

 二式野は煙草に火をつけたあと、そこにマッチを投げ込んだらしい。

 だが、よく確認していなかったので、隣のゴミステーションに入ったかもしれないし、消えてなくて、ゴミに引火したのかもしれない、と言っていた。

 怖くて今まで、名乗り出られませんでした、すみませんでした、と警察に謝っていたぞ」

 八咫は老眼鏡の上からこちらを見、

「……あの男、煙草を吸うのか?
 今の若い奴、みんな電子タバコじゃないのか?」
と言ってくる。

「そうだろうな、俺もそうだし」
と言うと、八咫は、あのな、という顔をした。

「それ、お前が考えたんだろ」

「そうだが。
 まあ、大丈夫だろ。

 名乗り出なくていいのをわざわざ名乗り出たわけだし。

 自分のせいで火事になったのかもしれないと、青くなって、震える小心者っぷりも、半分演技じゃないし、バッチリだった。

 重過失には当たらないから、アパートの保険も下りるだろうし。

 まあ、他の住民のこともあるから、法律的にはともかく、人として、いろいろ保証した方がいいだろうが。

 まあ、これから大家と話し合うだろうよ」
と言うと、八咫は呆れた顔をした。