一筋、頰を伝い落ちた涙を拭うことなく、二式野は言った。

「なんだかわからないが、なにかから解き放たれた感じがする……」

「俺にとってもお前は死神だったが、お前にとってもそうだったんだろうな」
と言ったあとで、利樹は、二式野に手を差し出す。

 二式野がそっと、その手をつかんだ。

「ありがとう」
と利樹は二式野に言った。

「そっくりな斗真も見ていたのに、俺の方だけ狙ってくれて」

 そして、ありがとう、ともう一度、繰り返す。

「俺の中に、わずかだけでも、記憶を蘇らせてくれて――」

 そのまま利樹は手を引き、二式野を引き起こしてやる。