真生は暗い夜道を辺りを窺いながら歩いていた。
住宅街の曲がり角で足を止め、真新しい白い塀の陰に身を寄せ、少し離れた位置にある斗真の家を見た。
自分が放火魔に狙われていると思って、利樹は斗真の家を出たのかもしれない。
だが、もしかしたら、犯人は、まだ、利樹が出ていったことを知らず。
斗真の家に火をつけるかもしれない。
そう思って、見張りに来たのだ。
すべてが杞憂ならいいのだが、と思ったとき、誰かの手が後ろから真生の口を塞ぎ、強く引き寄せた。
羽交い締めにされたが、真生は騒がなかった。
すると、
「なんだ面白くないな」
とどきりとするほど、高坂そっくりの声が耳のすぐ側でする。
「何故、騒がない、真生」
と手を離して、利樹が言った。
「……弓削先生の手だな、と思って」
利樹の匂いはまだよく知らないが、その大きな手も後ろから拘束するように抱きしめてきたその感じも高坂と同じだったから、騒がなかったのだ。