理事長室を訪ねた利樹は、どっかり八咫のデスクに昔から愛用している年季の入ったボストンバッグを置いていった。

「八咫、何処か焼けてもいいところはないか」

「あるか」
と言ったあとで、八咫は言う。

「なんだ。
 また命でも狙われているのか?」

「わからないが、昨夜、道路から俺の居る部屋を見上げていた若い男が居たんだ。

 暗がりだったが、どうもその男の気配に覚えがある気がして」

 ふうん、と言った八咫は、
「補修工事する予定の礼拝堂なら、吹っ飛んでもいいぞ」
と言い出す。

「……隙間風が吹いてそうだが」
と言ったあとで、ん? と思う。

「どうした? 高……」

 高坂と呼びかけて、八咫は止めた。