「斗真」

 昼、教室の窓からグラウンドを見ていた斗真は、いきなり真生に声をかけられた。

 その呼び方に、なにか切迫したものを感じて、こちらも緊張しながら振り返る。

「今朝、弓削先生が荷物持って病院に行くの見たんだけど」

 なに見られてんだ、あいつ……と思いながら、斗真は言った。

「ああ、今日からしばらく病院に泊まりらしくて」

「それであんな荷物持ってく?」

 ……無駄に鋭いな、と斗真は思う。

 斗真も利樹がもう帰ってくるつもりはないのは察していた。

 ただ、それが母親が言うように、自分がうるさいせいかというと、そうではない気がしていたのだが。

 そもそも、そんなこと、いちいち気にするような男ではない。

「弓削先生のアパート、火事になったのよね?」

 ふいに真生がそんなことを言い出した。

 なになに? と近くに居た夏海まで混ざってくる。