俺は真生が好きだから、高坂透になろうとしているのか。

 高坂透だから、真生を好きなのか。

 そこのところは、よくわからないが。

 でも、初めて、あの夕暮れの礼拝堂でパイプオルガンを弾く真生を見た瞬間、息ができなくなった――。

 あの夕暮れどきのことを鮮明に思い出していたとき、利樹はその人影に気がついた。

 住宅街の細い道からこちらを見上げている薄手の地味なコートを着た若い男。

 一瞬、目があった気がしたが、男は行ってしまった。