「秋彦」
と院内放送の響く病院の廊下で、前を歩く白衣の男に利樹(としき)は声をかけた。

 男のくせに透き通るような肌をした色素の薄い男が、ん? と振り返る。

「ジャンケーン」
と無表情に、だが、子どものように右手を拳にして振ってみせたが、秋彦はその手をつかみ、

「今日は譲ってやる。
 その代わり、今度おごれ」
と言ってくる。

 了解、と言うと、秋彦は手を離した。

 もともと付属高校の保健医として、時折、学園を覗いていたのは、この津田秋彦だったのだが。

 自分がこの病院に着任してからは、八咫理事長が、
「手が空いている方が行け」
と言うので、交代で覗くことにしていた。

 とは言っても、呼び出されたら行くくらいで、学園に常駐しているわけではない。

 なので、何事もないときは、休憩時間に行って、珈琲を淹れて飲んで帰ってくるくらいだ。

「いいですねー。
 女子高生を眺めてお茶して来れて~」
と人のいいおじいちゃん先生に笑って言われたが、特に女子高校生には興味はない。