「ともかく、俺は本当は、もともと高坂に対しては、虫酸が走るとかなかったから。

 敵対する理由がなくなった今、お前が高坂であろうとなかろうと、仲違いする必要はない」

 じゃあ、九時には来いよ、と言って、行きかけ、秋彦は言う。

「面白いもんだな。
 お前は生まれ変わったのに、真生のために、高坂に戻ろうとしている。

 八咫理事長は過去のすべてを引きずったまま、まだ生きている。

 本当の意味で生まれ変わったのは、俺だけなのかもしれないな」

「秋彦先生ー。
 今日何時でしたっけー?」
とロビーを通りかかった看護師たちに言われ、

「九時、九時ー」
と秋彦は笑って手を振っている。

 ……いや、だから、何処も変わってないように見えるんだが、と思いながらも、利樹は呑みに行かないとは言わずに秋彦たちを見送った。