廊下の向こう側、そこに誰かが立っていた。

その人物は走ってこっちまでやって来て、2メートル先で立ち止まる。それ以上近づいていいのかわからないというようにも見えた。


「悠真……」


その瞬間、私は悠真によって抱きしめられていた。


「橙子……橙子…………」


何度も何度も悠真はその名を呼ぶ。私は体が震えている彼の背中に手をまわした。


「悠真ぁ……」


泣きじゃくった。子供のように泣いた。お互いの名前を何度も呼んで、意味もなく謝った。


少しして落ち着いてきたころ、私は消え入るような声で呟いた。


「倉田は…………?」


その言葉に、悠真は私の体を離した。すごく言いにくそうにしているのがわかる。


それだけでわかった。


「――私……私が倉田を巻き込んじゃった」

「違う。倉田は自分から橙子たちを守ったんだ。あいつはそういうやつだから」


そういうやつ。うん、そうだよね。死んでも他人の心配して……あいつほんとにバカだよ。ほんとに……



ほんとに涙が止まらないよ……――