婚約指輪を渡したのは、一緒に遊びに行った観覧車の中だった。本当はてっぺんで渡そうと思っていたのだが、照れくさくてなかなか言い出せず、結局終わりがけに渡すことになった。


「……本当は1番上で渡したかったんだけど」

「おそっ」


だけど左手薬指にはめた指輪を見て少しだけ瞳を潤ませた。


「ありがとう。ほんとに嬉しい」


このときの彼女を見て思った。この人を一生幸せにしよう。俺の手で……――





守ろうと思った。俺自身の手で橙子を幸せにしようと考えていた。

だけど、あの日それは起こったのだ。


結婚前日、橙子は俺の家にやって来た。ちょうど両親が仕事に行ってしまい、朝ごはんを作ろうとしていたときだ。


「じゃあ私が作るよ」


彼女の厚意に甘えて、自分は顔を洗おうと洗面所にいたときだ。

誰かの悲鳴が聞こえてきた。


なんだ今の……?
寝ぼけた頭ではそれ以上考えることができなかったから、台所にいるはずの彼女に訊こうと思った。


「ねぇ橙子。今なんか聞こえな……」


言いかけたときだった。彼女がいないことに気づいた。



「―――橙子?」











そして、今…………行方知れずだった橙子が目の前にいる―――――