康樹君の家に帰宅すると、いつから来ていたのか倉田がいた。
彼は大学卒業後就職せず、今はフリーターとして毎日の食費を稼いでいるらしい。
いつも不思議に思うのだが、倉田とつきあう女は大変なんじゃないかと思う。
「よっ!元気にしてるか?」
いつものように軽い調子で倉田は声をかけてきた。
「なによ……冷やかしに来たんなら帰ってよ」
「うわ……なんだその言い方。心の友に向かって」
意味不明である。
ちょうどそのとき2階から降りてきた康樹君を見て、奈美に告白されたことを思い出した。
一応本人に言ってから断るべきだと思い、悠真からもらった学級写真を見せて今日のことを話した。
すると……
「へぇ……かわいいじゃん。まさか断るなんて言わないよね?」
それは私にとって意外な言葉だった。
「当たり前に断るよ。だって今日会ったばっかりだし、私女だよ?」
「会った初日につきあうことなんて珍しいことじゃないよ。それに体は男だ。学校ではお姉さんは湯澤康樹として生活しなきゃだって」
つまりどういうことだ?
「つまりその女の子とつきあえって話だろ」
首を傾げる私の横で倉田がとんでもないことを口にして、強引に話はまとまった。