しかし、ねじりはちまきのおじちゃんに罪は無い。私はおじさんにお礼を言うと、教えられたイベント会場に向かう事にした。

 この区民施設はちょうど、目黒川を挟むように位置しているようだ。さんまの配布場からイベント会場に向かう途中に橋があり、橋の下は目黒川だった。

 東京都世田谷区、目黒区、品川区を流れるこの川は、川底も川岸も全てコンクリート壁で覆われ、水も殆ど流れていなかった。崖のように垂直な川岸は、5メートル以上はありそうに見え、川に人が入ることを物理的に拒絶している。
 目黒川と言えば都内有数の桜の名所だ。てっきり私はせせらぎの音がする川の岸辺に桜並木があるのだと思っていた。
 広尾のイマディール不動産の近くを流れる渋谷川を広くしたような川の構造は、イメージとだいぶ違う。けれど、真っ直ぐな川の切り立つ人工壁の上には遥か遠くまで桜並木が続いていた。きっと、春にはこの川面をピンク色に染め上げるのだろう。

 屋台では各地の物産品や、ちょっとした食べ物が売られていた。ステージでは子ども達がフラダンスを披露している。首に花をかけて、満面に笑みを浮かべて。見ていたらハワイに行きたくなった。ハワイに行ったことなんて、1度も無いけど。
 
 時計を見ると、まだ10時半だ。そこで、私は前々から行きたいと思っていた場所を見に行く事にした。それは、目黒駅から目黒川を交差するように通っている目黒通りという幹線道路。
 実は、目黒通りの目黒駅から自由が丘の方向に進むエリアは家具屋さんが集中しており、通称『インテリア通り』と呼ばれている。

 リノベーション物件を売り出すときは家具付きで売ることも多々ある。そこで気付いたのだが、家具1つで部屋の印象はだいぶ変わる。アットホームな雰囲気だったり、クールな雰囲気だったり。そんなこんなで、最近オシャレなインテリアに興味津々の私は、インテリア通りをウインドウショッピングすることにした。

 インテリア通りでは、片側2車線の道路の両側にインテリアショップが点在している。通常の家具屋から、北欧風などのコンセプトを決めて家具を集めているお店、アンティーク調など様々だ。各店ともにオーナーさんのセンスが光っており、見ていて全く飽きない。こんな家具を揃えたいなぁ、なんて、想像が膨らんだ。

 最後に入ったお店は、照明専門のお店だった。店の中にあるのは暖色系を中心とした照明器具の数々。シャンデリア風や、ランタン風、花などを模した変わり種まで揃っていた。
 そこでシェードに絵が描かれており、電気を灯すと影絵になるミニスタンドライトを見つけ、私は目を奪われた。シェードの厚さを変えることで、透過する光量を調整して絵を浮き上がらせるのだ。

「そちらの商品は今、その1点のみになっています。可愛らしいですよね」

 店員さんが気さくに話しかけてきた。値札をみると、『¥6,000』と書いてある。確かに可愛らしいけど、どうしようかな。私が迷っていると、店員さんが奥に行き、また戻ってきた。

「今ならこちらのLEDもお付けしますよ」
「買います!」

 我ながらチョロい客である。でも、凄く気に入ったので後悔はなかった。

 帰り際はスーパーに寄って夕食の買い物をした。何を買ったか。それはもちろん、生さんまにかぼす、おろし用の大根だ。

 家に帰り、試しにカーテンをしめて買ったばかりのランプに灯りを灯すと、部屋の壁にはぼんやりとヨーロッパ風の街並みが浮かび上がった。空には妖精(?)が飛んでいる。

「可愛いなぁ」

 思わず独り言を言ってしまうほどの可愛らしさ。普段使いにはやや暗すぎるけど、可愛らしさには文句なし。今日は寝る前に、このランプを灯してアロマでも焚こうかな。

 でも、その前に。午後はしっかりと勉強して、夕食は自宅でビール片手にさんまパーティーをしよう。