「謝るのは私じゃなく、友だちの………」
「それりお母さんこそ、僕の心配なんかしてていいの?」
「えっ!」
母親の言葉をさえぎって、僕は低い声で質問した。
「どういうこと?」
「父親から離婚届が送られてきたのに、お酒ばっかり飲んででだいじょうぶなの?」
と言っても、僕の願いで七日間だけ父親が明日から帰って来る。だが、お金が増えることはない。
「願………」
母親が僕の名前を呼びながら、一歩近づいた。
「ごめんね、願。私、さびしいの。お父さんが仕事で家を離れてから一回も連絡ないから、さみしかったの。でも、友人とお酒を飲んでると気持ちがふわふわとなってさみしい気持ちから、楽しい気持ちになれたの。なんどもお酒をやめようと思ったけれど、さびしさに耐え切れなかった。ごめんね、願」
僕を抱きしめていた母親の口から、謝罪の言葉が聞こえた。
父親が家を離れてから母親がさみしかった気持ちになるのはわかるし、友人とお酒を飲みたくなる気持ちも、今の母親の言葉を聞いてなんとなくわかる。だからと言って、毎月父親から送られてきた生活費のお金まで手を出すことはないじゃないか。
そう思って僕は、下唇を強く噛んだ。
「ごめんね、願」
母親が、もう一度僕に謝った。
「謝るぐらいだったら、僕のためにお酒をやめてくれよ!」
母親の体を振り払って、僕は大きな声を上げて家を飛び出した。
背後から、「願」という母親の声が聞こえたが、僕は足を止めなかった。等間隔に設置された街灯には白色灯の明りが灯っており、暗くなった夜道を僕はがむしゃらに走った。がむしゃらに走るにつれて、自分の家がだんだん遠ざかる。
つい最近までけたたましく聞こえていたせみの合唱も、どこからともなく聞こえる鈴虫の鳴き声に変わっていたことに、季節は夏から秋へと移り変わったんだと自然が知らせた。
「それりお母さんこそ、僕の心配なんかしてていいの?」
「えっ!」
母親の言葉をさえぎって、僕は低い声で質問した。
「どういうこと?」
「父親から離婚届が送られてきたのに、お酒ばっかり飲んででだいじょうぶなの?」
と言っても、僕の願いで七日間だけ父親が明日から帰って来る。だが、お金が増えることはない。
「願………」
母親が僕の名前を呼びながら、一歩近づいた。
「ごめんね、願。私、さびしいの。お父さんが仕事で家を離れてから一回も連絡ないから、さみしかったの。でも、友人とお酒を飲んでると気持ちがふわふわとなってさみしい気持ちから、楽しい気持ちになれたの。なんどもお酒をやめようと思ったけれど、さびしさに耐え切れなかった。ごめんね、願」
僕を抱きしめていた母親の口から、謝罪の言葉が聞こえた。
父親が家を離れてから母親がさみしかった気持ちになるのはわかるし、友人とお酒を飲みたくなる気持ちも、今の母親の言葉を聞いてなんとなくわかる。だからと言って、毎月父親から送られてきた生活費のお金まで手を出すことはないじゃないか。
そう思って僕は、下唇を強く噛んだ。
「ごめんね、願」
母親が、もう一度僕に謝った。
「謝るぐらいだったら、僕のためにお酒をやめてくれよ!」
母親の体を振り払って、僕は大きな声を上げて家を飛び出した。
背後から、「願」という母親の声が聞こえたが、僕は足を止めなかった。等間隔に設置された街灯には白色灯の明りが灯っており、暗くなった夜道を僕はがむしゃらに走った。がむしゃらに走るにつれて、自分の家がだんだん遠ざかる。
つい最近までけたたましく聞こえていたせみの合唱も、どこからともなく聞こえる鈴虫の鳴き声に変わっていたことに、季節は夏から秋へと移り変わったんだと自然が知らせた。