「なぁ、尊人。お前、広瀬となに話してたんだよ?」

午後四時二十分、終礼のチャイムが学校全体に鳴り響いて教室を出たあと、僕は自転車に乗って、友だちの尊人と一緒に家に帰っていた。

「え、いつの話?」

尊人は、首をかしげた。

「朝の話だよ。お前、広瀬と話してただろ」

眉間にしわを寄せて、僕は尊人に強い口調で訊いた。

「なんでもいいじゃん、そんなこと」

そう言って尊人は僕から逃げるように、自転車をこぐスピードを上げた。

「なんで教えてくれないんだよ、尊人」

不満な声を漏らしながら、僕は尊人の後を追いかけた。

舗装された道を自転車でスピードを上げて進むと、涼しい風が僕の黒い髪をなびかせた。

「教えろよ、尊人」

百メートルほど追いかけたところで、僕は尊人に追いついた。

尊人は自転車から降りてガードレールにもたれて、苦しそうに荒い呼吸を吐いている。

「なんで、そんなこと聞くんだよ?」

尊人は、不満そうな声で僕に聞き返した。それは、つぼみのときと一緒だった。

「気になるからだよ」

僕は、はっきりとした口調で言った。

「べつに、普通の話だよ」

尊人の言い方は、そっけなかった。その言葉も、つぼみと一緒だった。

「じゃあ、今週の土日、どっちか僕と遊ばないか?」

「いや、土日はむりだ。悪いなぁ、願」

手をパタパタと振って、尊人は早口で僕の誘いを断った。

「え、お前もかよ。つぼみも、土日はむりだって言ってたぞ」

僕は、怪訝そうな表情を浮かべた。

「へぇ、そうなんだ。そりゃ、しかたないなぁ」

そう言って尊人は、自転車に乗って僕から逃げるように家に帰った。

尊人の行動に怪しさは感じていたが、それ以上聞くことはなかった。