「ぬれて帰ったら、風邪引くよ」

母親が、心配した声で僕に言った。

「だいじょうぶだよ」

そう言って僕は、朝食を食べた。

「行ってくる」

朝食を食べ終えた僕は、学生服に着替えて玄関を出て、自転車にまたがって学校に向かった。

「行ってらっしゃい」

背後から、僕を見送る母親のやわらかい声が聞こえた。

昨日の僕の願いがかなっていたら、広瀬とまた会えるはずだ。

僕は広瀬が学校にいることを想像しながら、ペダルを強くこいだ。

自転車をこいで十五分後、僕は学校の駐輪場に自転車を止めていた。自転車の前カゴからカバンを手に取って、校舎に入る。らせん階段をのぼり、わたり廊下を歩いて一番奥の自分の教室の扉を開けて中に入った。その瞬間、クラスメイトの話し声が僕の耳に聞こえた。

「広瀬……」

いないと思っていた彼女の席に目をやると、つぼみの姿が僕の目に映った。その近くには尊人がおり、つぼみと楽しそうに話していた。