「どうして?僕の願いをひとつだけかなえてくれるんじゃなかったの?」

女神様に拒否されて、僕は不満そうな表情を浮かべた。

「その願いは、一万円の対価に見合ってないからだ。人の病気を完全に治したりするには、本人の一番大切なものを失わないといけない」

女神様は、はっきりとした口調で僕にそう伝えた。

「一番大切なものを失う………」

「そう」

女神様が、短く言った。

僕は一番大切なものを頭の中で数秒間考えた結果、思いついたのは〝つぼみ〟だった。しかし、彼女を失うことは僕にはできない。

「じゃ、広瀬ともう少しだけ一緒にいたい」

パンと、両手を合わせて、僕は願いを口にした。

彼女とは、いつかは別れないといけないかもしれない。でも、もう少しだけ一緒にいたい。

「その願いなら、かなえてもいいぞ」

僕の願いを聞いて、女神様は承諾した。