「野菜のどこか、体にいいんだよ?」

僕は小鉢に入っている、ほうれん草に視線を落としながら食パンのはしっこをかじった。

食パンにほどよく溶けたバターのまろやかな風味が、僕の口の中に広がる。

「うめぇ」

すなおな感想を僕は口にした。

ふんわりとした食感とオーブントースターで焼いて少し熱くなった食パンが、僕の舌触りにとてもいい。

「コラ、願。野菜も食べなさい」

僕が野菜を食べてないことに気づいた母親が、むっと眉間にしわを寄せて注意した。

「食パン食べたら、お腹いっぱいになったんだよ」

僕は自分のお腹を右手で軽くさすりながら、低い声でそう言った。

「はぁ。野菜も食べないと、病気になるよ」

母親は呆れた表情を浮かべながら、食器を引き上げた。

母親に言われたところで、嫌いな野菜を食べる気にはなれない。そこに、〝愛情〟がないからだ。好きな人に同じ言葉を言われたら、僕は嫌いな野菜だって食べれる……はず。