「ちょっとした願いよ」

教えたくないのか、つぼみははっきりとは言わなかった。

「五千円も神社に納めて、ちょっとした願いって気になるなぁ。願も、そう思うだろ」

そう言って尊人は、僕に視線を向けた。

「まぁ、高校生にしてはけっこうなお金だからね」

尊人にそう言われて、僕はあいづちを打った。

「ほんとうに、ちょっとした願いだから」

手をパタパタと振って、つぼみはぎこちなく笑った。

「ふーん、そうか。でも、さっき願が〝神様なんか存在しない〟って言ってたぞ」

尊人が僕を指差して、さっき二人で話していたことをつぼみに言った。

「え、そうなの?」

それを聞いてつぼみは、僕に視線を向けた。

つぼみの茶色瞳がかすかに潤んでおり、僕は自然と彼女と目をそらした。

ーーーーーーなんで今、そんなことをつぼみの前で口にしたんだよ!

そう思いながら、僕は尊人をにらんだ。

「いないの、神様?」

つぼみが、一歩僕に近づいて悲しそうな顔で訊いた。

「見たことないから……いないんじゃないかな?」

僕は一歩後ろに下がって、困ったような顔で言った。

「そうだよね、いるわけないよね」

悲しそうに笑って、つぼみは神社から離れた。

「おい、尊人。なんで広瀬の前で、〝神様なんか存在しない〟って言ったんだよ!」

僕は眉間にしわを寄せて、怒ったような口調で彼に言った。

「え、だってお前、さっきそう言ってたじゃん」

「そりゃそう言ったけどよ………」

僕は、さっき自分が言った言葉に後悔した。そして僕たちも、神社を離れて自転車で学校に向かった。