夢中で走っていたせいか、砂浜から浅瀬を通り越して、いつのまにか僕たちは足のつかない深い海まで走っていた。

ーーーーーーブクブク。

気がづくと、僕の視界は暗かった。美しかった海の景色から、真っ暗な世界。呼吸がだんだん苦しくなり、僕はほんとうにこのまま死ぬのかと思った。

「ぷはぁ!」

しかし、すぐに脳が酸素を要求し、僕は両足を交互に動かして海面から顔を出した。その瞬間、暗かった世界から一転、まぶしい太陽の日差しが僕の体全身を照らした。

「はぁはぁ」

荒い呼吸を繰り返しながら、僕は空気がこんなにもおいしいことをこのとき初めて知った。

「びっくりした。いきなり海に向かって、走るんだもん。けっきょく、願も私と一緒に死にたかったんじゃないの」

怒った言い方だったが、つぼみはクスクス笑っていた。

「ごめん」

僕は視線をそらして、つぼみに謝った。

「ねぇ、願。こっち向いてよ」

やさしい口調で彼女にそう言われて、僕はつぼみに視線を向けた。

「ん!」

つぼみは僕の頬を軽く両手でさわりながら、キスした。

涙のせいだろうか海水のせいだろうか、わからなかったけれど、一回目のキスよりとても冷たく感じた。