「海っていいね」

つぼみは僕から海に視線を移して、かすかに目を細めた。

海風に少し強い風が吹いて、つぼみの後ろ髪がなびく。

「海を見てるだけで、私のいやなことが小さく思える」

彼女のいやなことはわからないが、つぼみの好きな場所は〝海〟だということがわかった。

「つぼみの好きな場所って………海?」

「うん。だから、海にデートをしにきたんだ。願は、きらい?」

「ううん、きらいじゃないよ」

僕は、ぶるぶると首を左右に振った。

「ねぇ、いやなことってなに?なんか、いやなことでもあるの?」

「えっ!」

「ほら、さっき言ってたじゃん。『海を見てるだけで、私のいやなことが小さく思える』って」

僕は心配そうな表情を浮かべて、つぼみがさっき言っていた言葉を彼女に訊いた。

「聞こえてたんだ。小さな声で言ったつもりなのに……」

さびしげな声で言って、つぼみは苦笑いを浮かべた。それを見て、僕の顔が心配そうになる。「やっぱりあのとき、私が神社に五千円納めたから、神様が願いをかなえてくれたのかな?」

「えっ!」

僕が質問したはずなのに、つぼみに質問返しされたことに驚いた。

「え、僕が質問したんだけど………」

自分の胸に指をさして、僕はとまどった様子になった。

「先に答えてよ、私の質問に」

先に質問に答えたくなかったのか、つぼみはわずかに強い口調で僕に言った。

「あのとき、って、いつのこと?」

ふぅっと口からため息を吐いて、僕はつぼみの質問を優先させることにした。

「今から二ヶ月前、学校に行く前に神社で会った日」

「あ!」

つぼみが口にした言葉を聞いて、僕の脳裏に神社で会った二ヶ月前のことを思い出した。

ーーーーーーたしかにあのとき、つぼみは神社に五千円納めていたっけ?