「いつまで、〝広瀬〟って、私のことを名字で呼んでるの？」

振り返って不満そうに言ったつぼみだったが、彼女のうるんだ瞳がなんだか悲しく見えた。

「じゃ、なんで呼べばいいんだ。それ以外、わからないんだけど」

僕は、眉を八の字にして訊いた。

「名前………〝つぼみ〟って呼んでよ」

ーーーーーードクン。

目の前にいる彼女から、〝つぼみ〟って呼ぶように頼まれて、僕の心臓が大きな音を立てた。

「ほら、〝つぼみ〟って呼んでよ」

もう一度、つぼみが同じ言葉を僕に言った。

「つ、つぼ……むりだよ。だって僕たち、彼氏と彼女の関係じゃないじゃないか！」

ゆっくりと開いた口から彼女の名前を言いかけたが、僕はぶるぶると首を左右に振った。

ーーーーーーダメだ。つぼみのことは名前で呼びたいけれど、この関係は〝愛〟で結ばれていないんだ。すべて、〝お金〟の力なんだ。だから、彼氏と彼女ではないんだ。

自分にそう強く言い聞かせるが、彼氏と彼女ではないことを辛くなった。