「ふぅ、すずしい」

口から息を吐いて、僕は空いていた後ろから二番目の窓際の席に座った。

「外は暑かったけれどバスの中はやっぱりすずしいね」

そう言ってつぼみは、僕のとなりに座った。

「秋なのに、急にこんな暑くなってふしぎな気候だね」

「ほんとほんと。まるで、夏みたいですね」

「天気予報のニュースで言ってたんですけど、この暑さ、十日間も続くみたいですよ」

他の乗客から聞こえる話し声は、この夏みたいに暑い天気の会話だった。

「やっぱり、みんなもふしぎに思ってるみたいだね」

「そうみたいだね」

つぼみにそう言われて、僕は苦笑いをした。

バスの車内の窓から、目まぐるしく変化する景色を僕はぼうぜんとながめていた。僕たちがバスを乗り始めてからすでに五十分ぐらい経過し、今は海沿いの道を走っていた。バスの窓から見える景色は、太陽の光に照らされたきれいな海がどこまでも広がっている美しい風景だった。少し窓を開けてみると、海のかおりが風に乗って僕の鼻腔にまで運んだ。