「明日、晴れるといいね」

「えっ!」

「明日晴れたら、外でデートできるから。そしたらまた、こんなきれいな夕日を願君と一緒に見られるから」

そう言ってつぼみは、笑った。

秋のひんやりした風が吹き、つぼみの長い髪の毛をなびかせた。

「願君はあした、どこか行きたいところあるの?」

つぼみは僕の名前を口にして、やさしい声で訊いた。

「つぼ……広瀬となら、どこでもいいよ」

思わず名前を言いかけたが、僕はすぐに彼女の名字を口にした。

ーーーーーーダメだ。つぼみとは愛で結びついて付き合っているわけじゃないんだから、僕が彼女の名前を口にするなんて………。

お金を使ってつぼみと付き合っているのだから、僕が彼女の名前を親しげに呼ぶことにどこかためらう部分があった。でも、ほんとうのカップルのように名前で呼び合う関係にもなりたいという思いもあった。

頭の中で二つの思いが交錯するだけで、彼女のことを名前で呼べない自分に、僕の胸が苦しくなるだけだった。