「帰りたくないの」

「どうして?」

どこかさびしげな声で言ったつぼみの言葉を聞いて、僕の顔がますます心配そうになった。

「こんな夕日に照らされた景色、次、いつ願君と見られるかわからないから」

ーーーーーードクッ。

とつぜん、つぼみに名前で呼ばれて、僕の心臓が音を立てた。

ーーーーーーえ、名前?僕と見られるかわからないって………。

つぼみが言った言葉を聞いて、僕の頭の中が一瞬でごちゃごちゃになった。

夕日に染まった街の景色から、いつの間にか僕は、つぼみの横顔を見つめていた。

「ねぇ。だからもう少しだけ、私と一緒に夕日を見よ?」

つぼみにすがりつくような目で見つめられて、僕は「い、いいよ」と、頬を赤らめて言った。

オレンジ色の太陽が西に沈むにつれて、街の気温は徐々に下がっていた。しかし、つぼみといるせいか、僕の心は火が灯ったかのように温かった。

「また、すぐ見られるよ」

「えっ!」

「夕日、またすぐに見られるよ。だって、明日も僕と会えるんでしょ」

つぼみになぐさめるように言った僕だが、ほんとうは自分が彼女とこんなにもきれいな夕日をまた一緒に見られるか不安だった。