「ごめん」

「いいよ、帰ろう」

口元をゆるめて、つぼみは自転車を押しながら帰り道をたどる。僕も、それに続く。

「ふしぎだね」

「明日から、十日間も休みなんて」

僕に視線を移して、つぼみはうれしそうな声でいった。

つぼみはもちろん僕のおかげだと知らないが、彼女もなんだかうれしそうでよかった。

「神宮君は、なにか予定あるの?」

「いや、べつに」

顔を赤くして、僕は小さな声で答えた。

願いをかなえているのだからフラれることはないとわかっていたが、僕は自分の口から〝一緒にデートをしたい〟と言えなかった。

ーーーーーーああ。なんでこう、自分の想いを伝えることすら正直に言えないのだろう。

「じゃ、明日、私とデートしよっか?」

ーーーーーードクッ。

つぼみの口からはっきりとした口調で聞こえた、〝デートという三文字の言葉を耳にして、僕の心臓が跳ねた。

「デート……」

そう言って僕は、つぼみにゆっくりと視線を向けた。

夕陽に照らさせれたつぼみの茶色瞳が、オレンジ色に映っている。