「あたりまえだよ。生活していくうえで、お金は必要だからな」

うれしそうな顔をした尊人は、僕からもらった一万円札をサイフに入れた。

僕たちは坂道をくだって、神社のある方向に向かった。自転車のスピードがドンドン加速し、涼しい風が僕の黒い髪をなびかせる。

「涼しい」

僕は、さわやかな笑みを浮かべてそう言った。

のぼりの坂道はきつかったけれど、その後のくだり坂は風に吹かれてとても気持ちがよい。

「願は、神社でなにを祈るんだよ?」

背後から、尊人が大きな声で僕にそう訊いてきた。

「なにも祈らないよ。ただ、行くだけ」

そう答えて僕は、そこを右に曲がった。

「はぁ、意味わかんねぇ」

眉間にしわを寄せながら、尊人も僕に続いて右に曲がった。

神社までの距離はあと少しで、ここからは平坦な道をペダルをこいで走っていく。平坦な道を三十メートルほど進んでもう一度右に曲がると、神社が見える。