「むり。千円じゃ、力でない」

尊人はぶるぶると首を振って、自転車を押しながらダラダラ歩いている。

「お前………」

僕は、ピクリと眉を動かした。

尊人はまだ、この坂道をのぼるに時間がかかりそうだ。

「じゃあ、一万円やるよ。だから、少し急いでくれ。学校に行く前に、神社に寄りたいんだ」

そう言って僕はサイフから一万円札を取り出し、尊人に見せた。

西から浜風が一瞬吹き、一万円札がひらひら揺れる。

「マジか、よっしゃぁ」

一万円札を見た尊人は目をキラキラ輝かせて、自転車にまたがってペダルを力強く踏んだ。その勢いはさっきとはまるで別人かのように、坂道をもうスピードでのぼる。

「すげぇな。てか尊人、体力あるじゃん」

坂道を勢いよくのぼった尊人に、僕は目を丸くして驚いた顔で言った。

「ぜぇぜぇ。一万円……約束だからな」

苦しそうに荒い呼吸を吐きながら、尊人は僕を見て言った。

「ははは。お金の執着心は、すごいな」

苦笑しながら、僕は尊人に一万円札を手渡した。