「尊人が、〝坂の上まで競争しよう〟っていきなり言ったんじゃないか」

僕は坂の上から、彼を見下ろして大きな声で言った。

「そりゃそうだけどよ………」

尊人は息を切らしながら、疲れた表情を浮かべて言った。

坂道をのぼっている途中、いきなり尊人が『坂の上まで競争!俺が勝ったら、千円。もし、俺が負けたとしてもお金は払わないから』とかすごく理不尽なことを言って、自転車にまたがってもうスピードでペダルをこぎ始めたのだ。しかし尊人の勢いはすぐに失速し、後ろからもうスピードで追い上げていた僕にあっという間に抜かされたのだ。

「千円、尊人にやるから早くのぼってこいよ。僕、神社に寄りたいんだ」

そう言いながら、僕は東にある神社に視線を向けた。

神社の反対側には海沿いの道が遠くに見え、その近くにある病院がここからだと小さく見えた。西から浜風が一瞬吹き、海水のしょっぱい香りがかすかに匂った。