「出かけるよ、願」

「わかってるよ」

玄関先から母親の声が聞こえ、僕は大きな声で返事をした。

母親が電話で学校に休むと連絡を入れ、僕たち家族は、出かけることになった。

「なにしてるの?早く行くよ」

「えっ!」

背後から母親の声が聞こえて、僕はビクリと肩を震わせた。振り向くと、母親の不思議そうな顔が僕の瞳に映った。

「えーと。冷蔵庫から、お酒がなくなってるなぁと思って」

僕は冷蔵庫の扉を開けて、そう言った。

冷蔵庫の中身は調味料やサランラップで包まれたお肉や野菜が保存されていたが、いつも見るお酒は入ってなかった。

「お酒は、今日からやめることにしたのよ」

そう言って母親は、冷蔵庫の中身を右手で閉めた。

あれほどアルコール依存症だった母親なのに、冷蔵庫の中からお酒がひとつも入っていないことに、女神様が僕の願いをかなえてくれたんだと実感した。

ーーーーーーたった一万円でやめれるのなら、最初から僕の言葉でやめてよ。それとも、僕の気持ちは一万円以下だったのかよ?

母親がお酒をやめてくれたのはうれしかったが、僕の気持ちがお金に負けたようですなおによろこべない。