「願。悪いけど、今日も購買でパンとジュースおごってくれないか?」

尊人が、軽い口調で僕にそう訊いた。

「べつにいいよ」

僕は、平然と言った。

僕がものを人におごるようになったのは、父親が海外で働き始めたのとほぼ同時だった。つまり、中学生ぐらいから、彼におごり続けている。

「いつも悪いな、願。おごってもらってばっかりで、なにも返せなくて」

尊人が、苦笑しながらそう言った。

「いいよ」

僕は、さらっと言った。

ほしい物があったらお金で買えるから、彼からのお返しはいらない。むしろ、必要なかった。そして最近では、そのお金すらもいらなく思えてきた。